話したって解決しない!?
このページを読んでいるということは、あなたは何か困りごとを抱えていると思われます。その困りごとを解決できるような人がいるのであれば、相談してなんとかしたいと思うことでしょう。
しかしその一方で、心のどこかでは「どうせ話しても解決しない」と思っているのではないでしょうか?
確かに、そうかもしれません。あなたがずっと悩んで抱えてきた問題は、誰かにちょっと話しただけで解決する、そんな簡単な問題ではないのでしょう。第一、そんな簡単に解決したら「困りごと」ではないですよね。他人にわかってたまるか、そうした気概のようなものすらあるかもしれません。
話したって何も解決しない、しかしそうだとしても、困りごとを話すこと、そしてそれを聞いてもらうことには、あなたにとってよいことがあります。
問題焦点型コーピングと情動焦点型コーピング
心理学では、ストレスの対処法を「コーピング(coping)」と呼びます。このコーピングの方法は、大きく分けて2つの方法があるとされています。
1つ目は問題焦点型コーピングと呼ばれる方法です。これは困りごとを直接なんとかする、解決するものです。もちろんこの方法が使えるに越したことはありませんね。そもそもの問題が解決するのですから。しかしそうは簡単にいかないことばかりです。そのため、2つ目の方法が必要となります。
それが、情動焦点型コーピングと呼ばれる方法です。これは困りごとがあることで生じた、不安や緊張などの情動を和らげようとするものです。情動焦点型コーピングは直接問題を解決するものではないものの、状況が好転するまでその人が待つことを助けたり、過度のストレス反応から心身を守ったりと、健康を保持する上で重要な方法です。
「どうせ困りごとを話したって解決しない」と考える人は、相談を問題焦点型コーピングとしてのみ捉えているのかもしれません。しかし自分の悩みを話すことは、不安や緊張を和らげる情動焦点型コーピングとしてもとても有効なものとなります。
反すう思考
あなたは悩みごとがあるとき、どのようなことを考えていますか?
なんとかその問題を解決しようと、いろいろと「ああしたらどうか」「こうしたらどうか」と考えていませんか?しかしそこで上手く解決策が見つからず、同じことを何度も何度も考えていませんか?同じところで思考がグルグルと回り、そうこうしているうちに、だんだんと気持ちが落ち込んでしまっているのではないでしょうか?
いうならば、それは地下に向かうらせん階段です。同じところをグルグル回っているうちに、どんどん気持ちが下向きに落ちていってしまうのです。
心理学では、こうした状態を反すう思考(抑うつ的反すう)と呼びます。反すう思考が続くと、どんどんと気持ちがネガティブに向かってしまい、すべてを悲観的な見方をするようになってしまいます。
じゃあネガティブなことを考えないようにすればいい、と思うかも知れません。しかし意識的に「考えないようにする」ことはとても難しいことです。
今から1分間「シロクマ」という言葉を絶対に考えないようにしようと試してください。
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追い出そうとすればするほど、それがやってくることに気づくはずです。厄介なことに、人間は考えないようにすればするほどそのことに注目してしまう、という特徴があるのです。
反すう思考に対処するために
ただし、同じことをぐるぐる考えてしまう場合でも、それを「誰かに話す」というプロセスの中で行うのであれば、気持ちが落ち込むことを止めることができるという特徴があるのです。
つまり、誰かに悩みを話しても解決することはないかもしれませんが、話すことは反すう思考に陥って気持ちの落ち込みが生じることを防ぐという効果があるのです。これがいわゆる「話をしてスッキリした」ということの背景にある心理的プロセスです。スッキリすることで、物事が好転するようなチャンスまで時間を稼ぐことが可能になるのです。
また、一人で悩みについて考えていると、最初は具体的だった悩みが、どんどんと抽象的になっていってしまいます。そうこうしているうちに、漠然とした苦しみが出てきます。それが「消えたい」や「死にたい」といった気持ちにまで行き着いてしまうことは珍しくありません。
具体的な悩みはまだ解決の方法がありますが、こうした抽象的な苦しさは対処をすることができません。せいぜい、リストカットや過食などの自傷行為によって、そうした苦しみをがまんができる身体の痛みに変えるくらいです。
しかし悩みごとを誰かに話をすると、抽象的でなく具体的な話をしていくことになります。そうなると、そうした漠然とした苦しみは生じづらくなり、より適切な対処方法をとることができます。実際、リストカットや過食などの自傷行為は相談やグチの量が増えると減っていきます。
このように、悩みを誰かに話すことはストレスに対処するためのとても大切な方法なのです。
話す相手を選ぼう
ただし、悩みを話す際には、相手を選ぶことが必要です。もちろん、有効なアドバイスをしてくれる人も大切です。しかし、話すことで情動焦点型コーピングになったり、反すう思考を止めてくれるためには、卓球のラリーのような会話ではなく、丁寧なキャッチボールのようなやりとりが必要になります。穏やかにあなたの話を聞いてくれるような人が向いています。
悩みを話す前に「話をきいてくれるだけでいいのだけど」と伝えることもよいでしょう。まずは身の回りの人に話すところから試してみてはいかがでしょうか。
話す相手がどうしてもいない、あるいは話しづらい内容でどう伝えればいいかわからない場合は、カウンセラーを頼るということも考えてよいと思われます。話し相手としてのカウンセラーのメリットは、話した内容が漏れる可能性がないことです。
また、どうしても話をすることが苦手である場合にも、カウンセリングの利用も考えてみてもいいかもしれません。カウンセリングで「誰かに相談すること」や「愚痴をいうこと」の練習を行っていくことで、徐々に身近な人にお話ができるようになることも十分に期待できます。